[ライフ]21世紀脳を持つ子供の育て方第5回「フィンランドの現地学校見学レポート」
「詰め込み型の教育ではなく子供のペース尊重のフィンランド教育とは!?」
フィンランドというとみなさんは何をイメージしますか?森と湖、サウナ、サンタクロース、オーロラ、マリメッコ、ムーミン、高い税金(※1)、整った社会保障制度などなど!! 教育界においてはもうひとつイメージされるのが、世界的に今注目されているフィンランド教育です。フィンランドはOECD(経済協力開発機構)によるPISA(※2)国際ランキングで2002年の調査開始から上位に躍り出て、世界中の教育関係者を驚かせました。実は最近、フィンランドの幼稚園、小中高校を視察する機会がありましたので、その報告をさせていただきたいと思います。
フィンランドはご存じのように森や湖など自然に恵まれた美しい北欧の国です。人口は550万人ほどで日本の約20分の1にもかかわらず、国土は日本とほぼ同じくらい。なのでフィンランドの人々は非常にゆったりと生活をしています。食事もとても美味しいですし、人もフレンドリーです。今思い出しただけでもふわっと心が温かい気持ちになります。
フィンランドの教育が注目を集めたのは、国際ランキングで上位に踊り出たという事実もさることながら、なぜこの子供のペース重視の教育で? という意外性ではないでしょうか?PISAで上位を占めるのは詰め込み型教育をさせるアジア諸国が多いのですが、フィンランドは本当に教育もゆったりしているのです。授業時間が短く、宿題もほぼなければ、チャイムもないようです。
最初に、いくつかの幼稚園、保育園を見学しました。時間はまちまちであったのにもかかわらず、私が目にした子供たちの活動のほとんどは "外遊び" でした。森へと続いている広い園庭で、子供たちは自由にブランコ、滑り台、ボール遊びなど、思い思いの遊びに興じていました。子供たちと一緒に遊ぶ教師はほとんどおらず、だいたいは見守りに徹しており、何か危険そうなときにだけ子供に声掛けをするとのことでした。その声掛けも日本に比べたら本当に少なく、思わず「アッ」と声を出しそうな場面でも、特に教師は動きません。子供は危険なことも遊びながら学んでいくのです。もちろん、保護者ともきちんとコンセンサスがとれているようです。
学校での毎日の授業や行動も自分で選べます。幼い時から自分の頭で考えて行動することが奨励されているのです。ひとクラスは20人くらいですが、その中でさらに数名のグループに分かれて授業を行います。そしてそれぞれのグループは、アートや外遊びや数遊びなど、自分の好きなスケジュールで学校生活を送っています。日本よりも教師の担当人数が少なく、1グループ数名をひとりの教師が担当します。その教師も、修士取得が必須という高いハードルもあって、教師の社会的地位(※3)は非常に高く、まわりからも尊敬されています。
フィンランドの教育ポリシーは「Everybody counts」(ひとりひとりが大事)です。この質の高い教師と少人数での学びで、そのポリシーを実現していると感じました。フィンランドは今や教育大国となっており、教育に関しての研究も盛んに行われています。そしてフィンランドの教育で最近、力を入れて増やしているのが体を動かす時間(※4)です。体を動かすことが学ぶ意欲を助長し、心理的、社会的、認知的にもポジティブな効果を及ぼすことが、科学的研究の結果として証明されており、学校でも、体育の時間以外にも体を動かす時間を意識的に増やしています。小学校では廊下や教室にケンケンパができるマスが描かれていたり、クライミングウォールがあったりするなど、休み時間に子供たちが体を動かせるようになっている仕掛けがいくつも見られました。それぞれの国々の教育は、その国の現代環境や文化、社会的な背景によって作られています。フィンランドの教育をそのままほかの国に移入することは不可能です。しかし、ひとりひとりを大切にし、子供の学びたいこと、子供の学ぶペースを尊重する、一見のんびりしている教育が、アジアの詰め込み型教育よりもアカデミックな面でも優れていると感じました。これは、いまや世界の教育関係者の多くが知るところとなっていて、世界の教育界に与えたインパクトは計り知れません。
高い税金(※1)
消費税は23%、所得税も平均で20%以上の高税率ですが、社会保障も磐石で、学費、給食費、医療費などは無料。フィンランド人は、高税率でもしっかりとした社会保障制度があるので不満に思う人はいないようです。
PISA(※2)
「Programme for International Student Assessment」(生徒の学習到達度調査)の略称。OECD加盟国を中心に3年ごとに実施される15歳児の学習到達度調査です。主に読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーなどを測定します。フィンランドは2003年、2006年の世界共通テストで上位となり、その後もトップレベルを保っています。日本は2000年には数学、科学、読解力がそれぞれ1位、2位、8位でした。しかし、2015年には5位、2位、8位へと順位を下げています。
教師の社会的地位(※3)
フィンランドでは教師の社会的地位は高く、医者や弁護士と並ぶ人気の職業です。お給料はそれほど高級ではないようですが、大学の教育学部は、倍率が数十倍のところもあります。
体を動かす時間(※4)
具体的には授業中は椅子に座る時間を減らし、バランスボールを活用したり、屋外で授業を行ったり、昼休みや休み時間には本を読むよりも体を動かすことが中心となっています。
日置麻実さん
ローラスインターナショナルスクールオブサイエンス 学園長。
東京、神奈川に8校のSTEMインターナショナルスクール、英語スクールを運営。日本に未来のイノベーターをたくさん輩出することを使命とする。上智大学外国語学部英語学科卒。