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好きなことを仕事にしてしまった男「SHAFT」 代表・栗原和也さんインタビュー

好きなことを仕事にしてしまった男「SHAFT」 代表・栗原和也さんインタビュー

好きなことを仕事にする。単純だけど難しい道を選んだ異端のチューナー、栗原和也さん。ハーレー・ダビッドソンや四輪インジェクション車のパフォーマンス・チューニング(性能向上)を手掛けてきた人に聞く、道の切り拓き方とは?
栗原和也
1967年5月22日、埼玉県行田市出身。株式会社SHAFT代表取締役。料理人を経て30歳でバイクをメインにメンテナンスを行う栗原工房を創業。その後、屋号をSHAFTに改名。シャーシダイナモを用いて、ハーレーダビッドソンのECM(コンピューター)や、四輪のEFIなどを操り、高い性能を引き出すチューニング・整備を得意としている。

料理人から好きな世界へ転身、唯一無二のチューナーになるまで

―大きな建屋にギッシリと入るハーレー・ダビッドソンと様々な年代のクルマ。主にインジェクション(※)のアメ車を得意としているSHAFTの栗原さんは、シャーシダイナモを使った正確な性能測定やチューニングノウハウを持つ、国内屈指の存在。特に吸排気まわりが得意だが、業界では異色だ。彼はいかにしてこの道を進んだのだろう。
※インジェクション=デジタル信号で燃料を噴射する装置。

―そのきっかけを聞くと。
栗原「もともとは中華料理のシェフです。簡単に言えば、料理人。10年ほどやって自分の店を持つところまでになりました。当時は売り上げも悪くなかったけど、ある日ふっと『これは自分のやりたいことではないな』と。それで考えた結果、まぁ『借金さえ返せばどうにでもなる』と思った。もうその瞬間、5日間で(料理人の仕事を)全部やめちゃった」。
―安定していた料理人をやめることに不安は無かったのでしょうか?
栗原「10年間めいっぱいやってみたんですよ。ただ店舗を増やすとか、そういった考えが全く浮かばなかった。要するに職人の気持ち。ところが、中華料理って何十人もの料理人で完結するのが本物じゃないですか。それは僕がやることじゃないと思って、一人でできるところで掘り下げていきたいなと思っちゃったから」。

趣味だったハーレーカスタムで試行錯誤した創業時代

―バイクの世界で職人になろうと決めた時期、いきなり自分で始めたというハーレーのカスタム。創業初期の経緯は独創的だったよう。
栗原「当時は66年のアーリーショベル(※)に乗っていました。すごく楽しくて(趣味として)いろいろカスタムするようになって、溶接したり、いろんなことをやってみました。当時(2000年頃)ハーレーのビンテージといえばチョッパーじゃないですか。それで自分でまあまあ考えますよね。考えていろいろ作ってみたんだけど、出来上がったら思ったものじゃなかった。なんか越えられないんですよ。要は当時モノだから良いということが分かった」。

栗原「そんなことをやってたら、ある日『ちゃんとお金を払うから、やってくんねえか』って頼まれた時が最初の仕事です」。
※アーリーショベル=1966~1969年頃までに生産・販売されたハーレー・ダビッドソン。
―最初はビンテージハーレーのチョッパーカスタムをやっていたのに、今のようなチューニングに移行したのは何故ですか?
栗原「自分のハーレーをカスタムをしているうちに、壊れものをただ直していくだけだと気が付いた。世の中そういうのが仕事になっていた時期だったけど、もういっそのこと、新型車の方がきっと速いし、丈夫だし、面白いんじゃないかと思って。それで現行モデル(インジェクション車)のチューニングに移行することにしました」。

栗原「店のコンセプトを変えたら、今度はそういうお客さんに来て欲しいじゃないですか。それで何も分からずサブコンみたいなもの付けてはお客さんも『良くなったぞ』と言うわけですよ。でも『リッター7kmしか走んねえよ』みたいな。スーパーチャージャーもやろうと思って『これどうすんの?』となった時に、やっと計測が出来るシャシダイ(※)が必要になるんだなって思ったんですね」。
※シャシダイ=シャシダイナモ(シャーシダイナモ、Chassis dynamometer)の略で、クルマやバイクの動力(馬力、トルク)を測定するための大型機械装置。
―こうして現在のSHAFTが得意とする、チューニングショップへの流れが出来てくる。

ハーレーのチューニングという新しい価値観

―当時日本では手探りだったハーレーのチューニング。しばらくは試行錯誤が続いたようで…。
栗原「古いバイクやハーレーに乗りたい人は、壊れるのが当たり前だっていうような感じになっちゃってる人たちが多かった。エンジンをかけるのにキック百発、『もう疲れた』みたいな。それで悶々としてる人は、もう壊れるバイクとかクルマに乗りたくないっていう人もいて」。
―インジェクション車のチューニングだけでなく、古いキャブレター車もセッティングひとつで乗りやすくなる。栗原さんはそういう直観で、シャシダイを使いこなせばエンジン性能を引き出せて、乗りやすいバイクに変えていけるはずだと考えた。しかし…。

SHAFTのチューニングに欠かせないシャシダイの使い始め

栗原「で、そっからいろいろ意見を聞いてみたりしたけど、もう知ってるふりをする人、知らない人、否定する人しかいなかった。最初に中古の機械(シャシダイ)を買って、それだけじゃまだ謎が解けなかったんですよ」。
栗原「今どきは全部インジェクションじゃないですか。それがぼちぼち世の中に出始めた時、僕はあの機械を使って調整していくって方向をやろうと思った。当時、ハーレーのパフォーマンスカスタムを勉強したくて、日本中のいろんな人の所に出向いたりして、皆さんはどういうふうに使っているのか教えてくださいと言っても、聞いたら『そんなものはハーレーじゃない』って。誰からもまともな返事が返ってこなかったんです。本当に誰もやったことがなかった。最初に中古の機械(シャシダイ)を買って、多少教えてくれそうな人の所に行って習ったけど、ハーレーを計測するなんて誰もやったことがない、そういう世界でした」。
―ハーレーは遅い、燃費悪い、壊れる。そうした常識とは違った世界を求めて、栗原さんはチューニングに没頭した。それはやがて自身がなりたかった職人の世界に繋がってゆく。

地元に解体屋が軒を連ねていた学生時代

―好きなことがたまたまバイク・クルマだった栗原さん。しかし、その熱量は並み外れたものがある。そうでなければ高額な機械を入れて、誰もやったことのない世界で仕事を確立できなかったはずだ。そんな彼のアイデンティティはどこで作られたのか? 学生時代の地元の話をしてくれた。
栗原「子供の頃、身内にクルマ好きがいたっていうのはあるかも。7歳くらいか、叔父が持っていたホンダのモンキーに乗っていた幼年期があって。あと、中学生、高校生の頃、僕が育った埼玉県行田市は解体屋さんが300軒、400軒とあったんですよ。もう解体屋さんしか知らない。そういう所で育っているので、ある意味恵まれた環境でした」。
―確かに、直して乗るには恵まれた環境で、そうなると知識やノウハウに価値がありますね。
栗原「だからもう自分でどうにもならないものに関しては、やっぱり技術であったりとか、どんな頭下げてでもなんとか取得したいなって考える。そういう中で育ってるんで」。

性分で買ってしまう道具の価格がケタ違い

―バイクだけでなく、四輪シャシダイも入れた栗原さん。シャフトというショップの特徴だけでなく、ある意味それは覚悟のようなもののはず。個人経営のショップとしては不相応なほどに高性能で高額な機械だ。そんな”大型投資”も、栗原さんに聞くと拍子抜けする。
栗原「おそらく日当で考えて10日間やったって10万円のような仕事であっても、僕はやりたければ2000万円でも5000万円でも必要な道具を買います。性分なんですよ。普段から3000円の仕事に3万円の道具を買ってきちゃう。だからどうにも計算が合わなくて(笑)。そういう商売はやっぱりちょっとまずい、ダメでしょうね。ダメなんだけれど、もうちょっと先になれば(世の中が)絶対追いついてくんじゃね? っていう気持ちはずっとありました」。
―ちなみに、現在使用している四輪用マスタング製シャシダイはおよそ3000万円、2輪&3輪用ダイノジェット製もフルセット800万円。さらに二輪用は業者からの依頼も多く、スペアとして600万円のセットもある。この計3セット体制だけでも、かなり高額な設備投資だ。
元来のクルマ・バイク好きから、こんな軍用ハマーも買ってしまう。レプリカながら、ガンマウントもちゃんと載っている。
奥のスクールバスは、なんと奥様のもの。このバスを公道で走らせるための逸話は多い。また、映画などの劇用車としての問い合わせが数多くやってくる。
工作機械も充実。ここにはなんでもある、おもちゃ箱のような空間。

まともな人たちが乗れるような世界に

吸排気コントロールを考えた先には、オリジナルマフラーの製作も必然だった。「ハーレーでアウトローって言ったって、ただのその辺の人じゃないですか。だから車検にも持っていけるよう合法マフラーを作ろうかなと思って」。
―栗原さんは必要な道具で必要とされる仕事をやってくれる職人だが、なかなかそんなショップには巡り合えない。結局、良いショップ、良い職人との出会いは、ユーザー自身の問題でもあるはずだ。栗原さんから見たお客さんとの巡り合わせを聞いてみた。
栗原「やっぱりプロセスを楽しめるようなところが一番大事かな。機械だから、絶対直るんですよ。ただ、そこに時間とお金とプロセス(工程)があるわけじゃないですか。だから僕はプロセスが楽しめるような人と付き合いたい。うん。どっちかっていうと、もう一発で答えが欲しいっていうことではなくて、簡単に言えば100万円の仕事は100万円かかるので、プロセスを一緒に楽しめないと」。
―ご自身がやりたいことをやって、良い機械を入れて。この地元で育ってきたけど、もっと広くお客さんと向き合って、気の合う人たちと出会えることは叶っているのでしょうか?
栗原「そうですね、それは叶っています。僕と合わないお客さんは、合う所に行けば良いと思っているので。自分が必要とされる人と会えるようにしているのは、やっぱり(パフォーマンス・チューニングという)間口の切り方とだと思うんですよ。必要のない人に必要でないことをしても、それがうまくいくと限らない。でも、こんなの(シャシダイへの投資)をやって僕は正解だったのか?って言われると、僕はもう全然正解。苦労した甲斐がありました」。

栗原「昔で言うショベルチョッパー全盛の頃の仕事から、新型のハーレー、要はインジェクション車になっちゃって、これからハーレーどうなるのっていう時代から今までの十数年間、僕は(チューニングの世界を)牽引してきた。今お前はどっちを向いてるのか?って言われたら、本当にまともな人たちが乗れるような世界。僕はチューニングで燃料をコントロールして、燃費性能や、その先の排気ガスをコントロールすることができる。車検に通るマフラーも作れるし、メーカーがやっていることと同じテストを受けて合格できるよ」。
―栗原さんは今の時代に胸を張って楽しく乗れる、ハーレーやアメ車を作り続けている。
創業当時からしばらくは栗原工房という屋号だった。「中途半端だなと思って。名前を決めると、なんかそっちの方向へ向かうじゃないですか。シャフトの屋号にしたのは2015年かな」。
SHAFT(チューニングラボ)
埼玉県深谷市上柴町東3-16-14柴崎倉庫内8号倉庫
048-501-7893
https://shaft-labo.jp/
撮影/能勢博史、取材・文/垣野雅史
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