法律相談連載第5回「高齢な親世代の消費者トラブル、詐欺被害を防ぐために必要なこととは」
今年はコロナのせいで親との交流を控えざるをえず、トラブルなく過ごしているか気になります。そこで今回は、高齢者を狙った詐欺や悪質商法などに注目。どんなトラブルが多いのか、MADURO世代にできる予防や対処法は何か、弁護士の熊谷さんにお聞きしました。
M 家族の幸せを考えた時、忘れてはいけないのが親のケア。最近、高齢者の消費者トラブルが目につくようになって、親をどう守っていいのか悩んでいます。
熊谷 親世代がトラブルに巻き込まれると、いずれは親の財産を相続する自分たち、ひいては自分たちの子世代にもトラブルが及ぶ可能性があります。ですから、親世代をしっかりとケアをしていくことが重要です。MADURO世代なら今から親といい関係を築いて対処していけば、大きなトラブルが十分避けられますよ。
M 高齢者が巻き込まれる消費者トラブルとしては、どんなものがありますか。
熊谷 国民生活センター(※1)によると、60歳以上の人から寄せられた消費者トラブルの相談件数は、2019年は約37万件。目立つケースとしては、「メールで身に覚えのない代金を請求された」「自宅を訪問した業者に勧められ、よく考えずにネット工事やリフォーム工事を契約してしまった」「メールなどを経由してアダルト系や出会い系などにアクセスしてしまい、高額請求された」といったものがあります。
M 弁護士に相談に来る方もいそうですね。
熊谷 今年はコロナ禍でさまざまな給付金や補助金が実施されたため、「給付金を受け取るには手数料を払わなくてはいけない」などと騙され、ATMから振り込んでしまった…というご相談がありました。相手が公的機関を名乗ると、信じてしまう高齢者は多いです。弁護士仲間からもよく聞く手口ですね。コロナとは関係なく、不動産や未公開株などへの投資話を持ち掛けられて詐欺被害にあうトラブルも多いです。
M 親がこうしたトラブルに巻き込まれたら、どうしたらいいのでしょうか。
熊谷 「おかしいな」と思ったら、すぐに消費者ホットライン「188(※2)」番や最寄りの警察署などで相談してみましょう。「その契約なら、クーリング・オフ(※3)できます」といった情報を教えてもらえることもあります。公的機関で対応しきれない場合は、弁護士に相談する手もあります。重要なのは、スピード。相手によっては、問題が起きてすぐに弁護士を通して交渉すれば、お金を返してくれることも。ただ、振り込め詐欺などでは、いったん払ってしまったら、お金を取り戻すのはほぼ無理です。ですから、そもそも親が騙されることのないよう予防することが大切ですね。
M 予防策としては何がありますか。
熊谷 日ごろから親としっかりコミュニケーションをとっておくことです。今は家族関係が希薄になっていて、親子の交流が持ててない人が増えています。そうした高齢者のさみしさにつけ込む手口が多く、高齢者の家に上がり込んで世間話をしながら信頼を得て、もうけ話や高額な契約を持ちかけることはよくあるんです。そうなってから我々が「騙されてるよ」と言っても、「お前は日頃ろくに連絡もよこさないくせに…、あの子は悪い子じゃない!」と聞き入れてくれません。そうならないためには、日ごろからこまめに連絡を取って、「何かあったらすぐに相談して」と話しやすい雰囲気を作っておくことが大切ですね。そうすれば親もトラブルに巻き込まれにくくなりますし、仮に巻き込まれたとしてもすぐ連絡してもらえます。それから、親の了承を得て、親の口座とインターネットバンキング、家計簿アプリ等を紐づけして、大きな出金などがないか子がこまめにチェックするという見守り方もあります。
M 詐欺などではなくても、親の判断力が衰えてきていて、不要な買い物を繰り返してしまうような場合もありますよね。
熊谷 親が普段使っている銀行口座とは別に親名義の口座を用意して、そこに財産の大部分を移して通帳を子が預かっておくという方法があります。普段使いの口座には、100万円など、使ってしまっても許容できる金額を置いておくのです。もちろん親自身の了承が必要です。なお、別口座を子の名義にしてしまうと、贈与税の対象となる可能性があるので注意してください。
M ほかに有効な予防策はありますか。
熊谷 どんどん新しい手口が誕生していますから、国民生活センターのサイトなどをチェックして、「いまこんな手口があるから気を付けてね」と知らせておくことですね。「企業を名乗る偽メールを使った犯罪が増えてるから、メールのボタンをクリックしたり、個人情報を入力したりしちゃだめだよ」なんていうふうに。
M 親子関係をよくするだけで、いろいろなトラブルを防げそうですね。今週、さっそく電話してみます!
国民生活センタ(※1)
国民生活を守るために、2009年に設立されたのが、消費者庁管轄の国民生活センター。この国民生活センターのホームページには、相談事例や判例、最近の事例から見るこまめな注意喚起情報、相談情報受付、身近な消費者トラブルQ&Aから、各都道府県の消費生活センターや消費生活相談窓口を紹介していますので、チェックしてみてください。http://www.kokusen.go.jp/index.html
「188」番(※2)
消費者庁の全国共通の消費者相談ホットラインのダイヤル。地方公共団体が設置している、最寄りの消費生活センターや消費者生活相談窓口に繋いでもらえます。
クーリング・オフ(※3)
いったん契約した後でも、一定の期間であれば、無条件で契約を解除できる制度(条件によってはできない場合も)。クーリング・オフできる期間は、例えば、訪問販売(キャッチセールス、アポイントメントセールス等を含む)や電話勧誘販売、訪問購入(業者が自宅等を訪ねての商品売買)の場合は、8日間。
中日綜合法律事務所 弁護士
熊谷考人さん
企業案件、相続案件を多く扱う弁護士事務所に所属。プライベートでは4歳の娘さんがいるMADURO世代です。