法律相談連載第6回「借金や負債も財産です!そんなマイナスの負の財産相続はどうしたら良いのか?」
家族をさまざまなトラブルから守るため、弁護士パパ熊谷考人さんからアドバイスをいただくこの連載。今回は、「負の財産相続」の対策について、お話をお聞きしました。
MADURO編集部(以下M)新型コロナウイルスが依然猛威を振るい、働き方、暮らし方が大きく変わりました。当然、財産の相続も大きく変わってくるケースも多くなってくるでしょう。プラスの財産ばかりではありません。借金や負債などマイナスの財産を親から相続するケースもあるかと思います。プラスの財産よりもマイナスの財産が多い場合、遺産相続はどのようにしたら良いのでしょうか? 親が借金や負債を背負っていた場合、返済義務を子は引き継がなくてはいけないのでしょうか?
熊谷氏(以下熊谷 敬称略)法律用語で「単純承認」と呼ばれる、いわゆる通常の相続だと、相続人(※1)はプラスの財産と一緒に、マイナスの財産…例えば、故人の借金や負債の返済義務も丸ごと引き継がなくてはなりません。
M 遺産が、預貯金や不動産の金額よりも、借金や負債の金額の方が多かったら、相続人は最終的にマイナス分を相続人は負担しなければいけないということですね。
熊谷 例えば、ある人が借金を抱えたまま亡くなって、その妻子が相続放棄をすると、法律的にはその妻子は「最初から相続人として存在していなかった」という扱いになります。故人に兄弟姉妹がいらっしゃれば、兄弟姉妹が相続することになります。ただ、普通に考えると、借金や負債が多ければ、その兄弟姉妹も相続放棄をすることでしょう。そうなると、最終的に「誰も相続をする人がいない」ということになります。その場合、裁判所が相続財産管理人として弁護士を指名して、その弁護士がプラスの財産を処分して、借金の整理をすることになります。破産の手続きと似た感じですね。
M 故人に借金や負債がある…でも不動産や預貯金もあって、トータルでプラスかマイナスかわからない。そんな場合は、どうすればいいのですか?
熊谷 相続放棄とは別に、「限定承認」という方法があります。これは、故人が持っていたプラスの財産の範囲内で、借金や負債を負えばいいというものです。借金を清算して、最終的にプラスが残れば、それを相続できます。借金や負債の方…つまりマイナスの財産が多かった場合は、プラスの財産の範囲内で借金や負債を返済すれば、残りの借金や負債は不問になります。
M 限定承認は、一番いいやり方ですね!
熊谷 ところが、この限定承認には、難しい点もあります。まず、相続人全員の同意が必要なこと。それから、借金の清算を自分でやらなくてはいけないこと。手続きが面倒なので、実際に限定承認を選ぶ人は意外に少ないんです。
M なるほど…。2021年になってもコロナ禍がおさまらない中、相続放棄を選ぶケースは増えそうですね。
熊谷 そうですね、債務を抱える人も増えていく傾向ですね。中小企業の経営者で、事業資金を借りるために連帯保証人になっていることも多いことでしょう。
M ちなみに連帯保証人になっている場合、相続ではどういう扱いになるのですか。
熊谷 ローンや借金と同じです。相続で連帯保証の責任を相続人が引き継いで、そのタイミングで急に会社の業績が悪くなって、その連帯保証の責任を相続人が負わされるということはありえます。ですから、連帯保証人になっている経営者は、経営している企業の状況も見ながら、相続をどうしていくか、考えておく必要がありますね。
M 世の経営者たちは、どう備えているのでしょう?
熊谷 銀行借り入れとかで連帯保証をされている中小企業の経営者の中には、自分の個人資産は生前贈与で家族にどんどん移しておいて、自分にもしものことがあったら、その後の相続放棄をしてもらうようにしておくとか…そういう対策をしている人も、いらっしゃいます。
M 複雑そうですね。そうした細かい工夫については、専門家のアドバイスを仰ぎたいところです。以前、この連載で熊谷先生がおっしゃっていた、ホームロイヤー(※2)を活用しても、いいかもしれませんね! その前段階として、「もしも…」に備えて、親にしておいてもらうこと、そして自分が妻子のためにしておくことはありますか?熊谷 まずは、自分にどういう財産、そして負債があるかリストアップして、家族にきちんと伝えておくこと。これだけはやっておきましょう。というのも、相続放棄の手続きは、3ヶ月以内に済まさなくてはいけないんです。とにかく期限が短い。なのに財産の状況がよくわからないようでは、残された家族もどうしていいかわからず、混乱してしまいます。
M 家族を守るために、常日頃から最低限の備えはしておきたいですね。
相続人(※1)
亡くなった人の財産を受け継ぐ人のこと。亡くなった人の配偶者は常に相続人となり、配偶者以外の人は、次の順序で配偶者と一緒に相続人になります。①故人の子。子がすでに死亡している場合は、その子(故人の孫)。②故人の直系尊属(父母や祖父母など)。③故人の兄弟姉妹。兄弟姉妹がすでに死亡している場合は、故人の甥、姪。
ホームロイヤー(※2)
会社を運営していくと様々な問題が発生します。それらの問題が発生しないような法的対処と、問題が発生したら法的に対応をしてくれるのが顧問弁護士。一般的には企業と弁護士が顧問契約を結ぶものですが、熊谷先生はそれを家庭や個人にも対応するべく「ホームロイヤー」制度を設けました。訴える、訴えられた場合以外にも、法的にどうなんだろう。というちょっとした疑問にも答えてくれます。個人向けの顧問弁護士(ホームロイヤー)契約について相談したい場合は…グローバルエージェンツ ☎︎050−5359−1501(8時〜22時)
中日綜合法律事務所 弁護士
熊谷考人さん
企業案件、相続案件を多く扱う弁護士事務所に所属。プライベートでは4歳の娘さんがいるMADURO世代です。