[ライフ]21世紀脳を持つ子供の育て方第3回「最近、注目のアメリカ発祥のSTEM教育概念とは?」
「21世紀のスキルを身につけるためには子供のSTEM教育はマストです」
皆さんは小中高の12年の学校教育で記憶に残っている授業はありますか?私には全くといっていいほどありません。その反対にサッカーの練習や試合、ピアノの発表会などはどうですか?あの時すごくいいシュートが決まって勝てたとか、あの時すごく上手に弾けた曲とか、鮮明に記憶に残っていることと思います。一体どこが違うのでしょうか? それは学校の授業はもっぱら受け身、先生の教えていることを聞いているだけで、サッカーやピアノは自分自身が主体性を持って頑張ったから記憶に残っているのではないでしょうか? 受け身の授業は12年間という膨大な時間の相当な部分を無駄にしているといってもいいでしょう。生徒が学びを自分事として目を輝かせながら取り組むことができれば、それは正に学びの革命です。その学びの革命が今実際に世界に広がっているのです。
STEMという言葉を聞いたことがある方も多いと思います。STEMとはScience(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Math(数学)の頭文字を集めたもので、今から十数年前にアメリカで発祥しました。今、世界中に広がっており、各国でSTEM教育が注目されています。STEM教育には様々な解釈がありますが、今回の連載では「Science、Technology、Engineering、Mathの4つの分野を統合したプロジェクト学習(※1)」としてご説明していきます。
STEM教育は「問題解決のプロセス」を学ぶ学習です。このページの図、エンジニアリングデザインプロセスが基本手順となり、ASK(問題提起)→IMAGINE(想像)→PLAN(計画)→CREATE(創造)→TEST(試行)→SHARE(発表)の6段階を踏んでいきます。
ローラスインターナショナルの小学1年生の授業で具体例を上げてみましょう。まず、「地震に強い建物を造るにはどうしたらよいか?」という問題提起からはじまります(ASK)。生徒は本やインターネット、研究者のYouTubeなどを見て調査をし、底面は三角がいいか四角がいいかなどをグループで話し合い、ブレインストーミングします(IMAGINE)。そしてデザインソフトなどを使ってビルをデザインし、材料を決めます(PLAN)。その後、ビルのプロトタイプ(※2)を作ります(CREATE)。このとき教師は見本も作りません。各自の自由な発想を阻害してしまうからです。教師はあくまでもメンターでありファシリテーター(※3)で、アドバイスをして答えを導くお手伝いをするだけです。そしてテスト(TEST)。作ったビルを机の上に乗せて教師が机を動かして、ビルが10秒間耐えられたら合格。ダメならもう一度やり直します。ここで心配なことは「不合格で生徒はやる気をなくしてしまうのではないか」ということですが、不思議なほど生徒は楽しんで何度もチャレンジしていきます。STEM教育では失敗することは当たり前、失敗を恐れなくする教育でもあるのです。そしてプロジェクトで何が成功で、どこが問題だったかを発表します(SHARE)。
このようにエンジニアリングデザインプロセスを踏んでいく中で、生徒たちは能動的にSTEMの知識や学力を吸収し、好奇心、クリティカル・シンキング(※4)、コミュニケーション力、情報分析力、創造性など21世紀スキルといわれるようなスキルを身につけていくのです。このプロセスを繰り返すことで問題解決のマインドセットができ、現実世界の問題を解決できるスキルを身につけていくのです。STEM教育はイノベーターになるための基礎を培う素晴らしい教育なのです。
プロジェクト学習(※1)
Project Based Learning と呼ばれる学習法です。テーマに基づいて生徒が自ら「課題を見つけ、調査をし、結果をまとめて発表する」という一連の流れに沿って学習していくのです。
プロトタイプ(※2)
実験的に作られる試作品の。ローラスインターナショナルの生徒たちが自由な発想で作り上げるそれぞれのプロトタイプには、どれひとつ同じものがないことに驚かされます。
ファシリテーター(※3)
一般的な教師のように一方的に答えを教えたり示したりせず、生徒が主体的に考えるように誘導し、自ら解決していく力を育んでいく役割を担っています。
クリティカル・シンキング(※4)
目の前にある情報を鵜呑みにせず、自分の意見だけでなく、外的な情報や意見も取り入れ、客観的に分析して考え、その時点でのベストな答えを導き出していくことが重要です。
日置麻実さん
ローラスインターナショナルスクールオブサイエンス 学園長。
東京、神奈川に8校のSTEMインターナショナルスクール、英語スクールを運営。日本に未来のイノベーターをたくさん輩出することを使命とする。上智大学外国語学部英語学科卒。