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[ライフ]21世紀脳を持つ子供の育て方第8回「これからの教育に欠かせないサイエンスフェアとは?」

[ライフ]21世紀脳を持つ子供の育て方第8回「これからの教育に欠かせないサイエンスフェアとは?」

今後、日本人がノーベル化学賞を受賞するのは難しくなるという意見があります。では、日本が科学技術大国であり続けるためには、どのような教育が必要なのでしょうか。

「科学を文化として楽しむ社会を作るため、インターナショナルスクールがしていること」


今年のノーベル賞は、日本人ではリチウムイオン電池を開発した吉野さんが化学賞を受賞しました。今世紀の自然科学分野における日本人のノーベル賞受賞者数はアメリカに次いで世界第2位で、日本の科学技術の基礎研究の高さを示しています。しかし、世界的な研究成果をあげてからノーベル賞を受賞するまでには20~25年のタイムラグがあります。そんな長い研究期間と今の研究の実状を鑑みると、将来的に日本人がノーベル賞を受賞するのは難しくなるという意見も聞かれます。科学技術への予算が十分でなく研究環境が整っていない、研究者を大事にしない、すぐに成果を上げないと研究をやめなければならないシステムで基礎研究が育たない、などがその主な理由で、研究者のほとんどが危機感を抱いています。最近の日本の科学技術研究予算は、中国の約22兆円、アメリカの約15兆円に対し約4兆円弱。論文数も低下しているというデータもあります。日本はいつから科学技術大国であり続ける夢を捨てたのでしょうか?


一方、理科教育はどうでしょう? 公立の小学校では今、低学年に理科という科目はありません。社会科と一緒になって生活科となっています。最初はクロスカリキュラム(※1)の学びかと思っていましたが、教科書の内容を見て驚きました。これで何を学べるのか?と思うほど薄っぺらな教育で、内容も社会科寄りで、サイエンスはほとんど学べないのです。日本の小学生は、6歳~8歳のゴールデンエイジをサイエンスなしの教育で学校生活を過ごすことになります。文科省は、将来的にそれがどれほどの損失になるかわかっているのでしょうか?


アメリカのサイエンスフェア。広い体育館にはサイエンスプロジェクトのボードが並び、生徒は来訪者に自分が研究したテーマのプレゼンをします。


教育1


アメリカの小中高の学校では1950年代からサイエンスフェアというイベントを全国規模で行っています。生徒はそれぞれ自分の好奇心のままにテーマを決め、自由研究をします。テーマ例は「コーラは人体にどう影響するか?」や「浄水に一番良いフィルターは?」などの身近なものから「風力発電の羽根はどの形状が一番効率的か?」などの専門的なものまで様々です。それを三つ折りのボードにまとめ、学校の体育館に全生徒分の研究ボードを並べるのです。サイエンスフェアでは、生徒がボードの前に立ち、来訪者、先生や家族、審査員に対してプレゼンをします。そこから選ばれた生徒は地域のサイエンスフェアに進みます。その次は州の大会、そして最終的にはアメリカ全国大会があり、優勝者が決まります。サイエンスフェアにはIntelが主催しているもの、Googleが主催しているものなど何種類もありますが、アメリカではサイエンスフェアは昔から伝統的に行われており、サイエンス教育のインフラとなっています。また、大会を勝ち抜いていく様子を綴った「理系の子」という本も出ており、サイエンスフェアはサイエンスのアメリカ版甲子園ともいえます。自然科学分野での今世紀のアメリカのノーベル賞受賞者数は世界最高の68人です。国を挙げての小中高のサイエンスフェアの影響が大きいかもしれません。ローラスでも毎年STEMフェア(サイエンスフェア)を開催しています。今年は11月9日、10日が開催日。テーマは宇宙〝Ad Astra !〟です。初等部生のサイエンスプロジェクトのプレゼン、JAXAからレンタルした宇宙服、ロケット、衛星の展示や、プラネタリウム、AR(※2)、VRの宇宙体験、マインクラフト(※3)での宇宙探索、そのほかドローンや電子回路のワークショップ、セミナーなど内容は盛りだくさん。東京にいながら1日中宇宙旅行を楽しめます。
「科学を文化として楽しむ社会にしなければ人類の未来はないと考えている」とは、オートファジー(※4)研究でノーベル賞を受賞した大隅良典さんの言葉です。私も科学を文化として楽しむ社会を創ることに何かしらの形で貢献できるよう日々活動をしていきたいと思います。


ローラスSTEMフェアでは、宇宙服やロケットの展示、ARやVRでの宇宙体験などに加え、初等部生によるサイエンスプロジェクトのプレゼンも行われます。


教育2


クロスカリキュラム(※1)
伝統的教科の枠組みを超えて横断的かつ柔軟に行う学習活動。各教科間の内容を連携させることで教育内容を効率的に理解させ、応用する力を身に付けることを狙う学習方法。


AR(※2)
Augmented Reality。一般的に「拡張現実」と訳されます。実在する風景にバーチャルの視覚情報を重ねて表示することで、目の前にある世界を仮想的に拡張します。


マインクラフト(※3)
自由にブロックを配置し、建築などを楽しむことができるコンピュータゲーム。最近では様々な能力が養われるとされ、教育に取り入れられています。日本では一般的に「マイクラ」と略されます。


オートファジー(※4)
Autophagy細胞が持っている細胞内のタンパク質を分解するための仕組みのひとつ。酵母から人にいたるまでの真核生物に見られる機構で、細胞内での異常なタンパク質の蓄積を防いだり、過剰にタンパク質合成したときや栄養環境が悪化したときにタンパク質のリサイクルを行ったり、細胞質内に侵入した病原微生物を排除することで生体の恒常性維持に関与しています。


本文


日置麻実さん
ローラスインターナショナルスクールオブサイエンス 学園長
東京、神奈川に8校のSTEMインターナショナルスクール、英語スクールを運営。日本に未来のイノベーターをたくさん輩出することを使命とする。上智大学外国語学部英語学科卒。

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