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第13回/AI時代とSTEAM教育「AIが発展していく時代に ロボットが人間に敵わないこと」

第13回/AI時代とSTEAM教育「AIが発展していく時代に ロボットが人間に敵わないこと」

スマートフォンの音声認識による検索機能、顔認証判断による広告など、私たちの暮らしの中でどんどんAI化が進んでいます。教育分野でもAI化著しい昨今で、決してAIが及ばない教育とは何か紐解きます。

少し前にタクシーに乗った時のこと。後部座席の目の前にタブレット端末があり、広告の動画が流れていました。画面には「これから顔面認証でお客様にあった広告を流していきます」という告知が出てきたので、私の顔はどんな広告の対象になっているのか、興味深く見ておりました。化粧品やファッションの広告でも流れてくるのかと思っていました。映し出されたのは、リポビタンDの「ファイト一発!」…そうかAIにとって私は疲れたおばさんでしかないのか…とガッカリしました。こんな時にAIは「この疲れた人のためにエナジードリンクの広告を届けて、買ってもらおう!」と考えているのではなく、単に大量のデータから膨大な数の人間の表情をディープラーニング(※1)して、その人に対応した広告を出すようにプログラムされているだけなのです。AI(人工知能)とはなんでしょう? 機械は考えることができるようになるのでしょうか? 東ロボ君プロジェクト(※2)というのをお聞きになったことはありますか? ロボットに学習させて、東大に合格させるプロジェクトです。最終的に東ロボ君がセンター試験の問題を解いてみると、東大に受からないけどMARCHレベルはクリアできるまで偏差値が上昇しました。なぜ東ロボ君は東大に受からなかったか?そのプロジェクトの中心人物、新井紀子氏はTED Talk(※3)の中でその理由をこう言ってました。「AIは問題の意味を理解していないから」と。例えば、英語の試験で、以下のような会話の空欄を埋める問題は、必ず間違えるのです(原文は英語)。Aもうすぐ本屋だね。あと2、3分歩けば着くよ。Bちょっと待って!(      )Aありがとう。靴紐がほどけるんだ。B5分前にも紐結んでいたよ。この( )の中にはいる選択肢は、1長く歩いたね。2もうすぐ着くよ。3靴紐がほどけてるよ。4君の靴高そうだね。AIの東ロボ君は2の答えを選んだそうです。数学の2次試験では成績上位1%に入った東ロボ君が、この英語問題の簡単な選択肢を間違えたのです…150億個の英文をディープラーニングしながらにもかかわらず…。実体験や経験、前後の文脈に基づく理解力や想像力を持っていれば、簡単に答えや解決法を導けますが、この世に生まれてきて赤ちゃんから人として成長していくような生活や人生を過ごしてがないAIには、そういう部分が圧倒的に欠落してるのです。


インターナショナルスクール


このAI時代を生き抜くのに必要な教育とは、デジタル技術革新の波に乗りつつも、AIではできない… 私たちならではの個性、理解力、人間力、創造力、表現力を鍛えていくことです。そういう意味でアートの教科は益々重要になってきています。最近ではAIが作曲した音楽、AIが描いた絵画、AIの書いた小説なども耳にしたり、目にしたりします。しかし、どれも「なるほどね」「まあまあいいかもね」くらいの感想で、ワクワクドキドキ心を揺さぶられるような傑作ではありません。それは何故でしょうか? アート、すなわち芸術とは人間の感情や経験に基づいた魂の発信であり、叫びです。AIの作品にはそれがありません。AIの作品は膨大な量の人間による作品のデータから抽出されたものですので、ゴッホの孤独にもベートーベンの絶望にも感動することも、心打たれるような影響を受けることもできないのです。つまり人間が生まれつき持っている感情がないのです。


STEMスクールのLaurusでもSTEMにアートの〝A〟を加えてSTEAM教育(※4)を進めています。最近2月末には初等部のPerformance day(発表会)があり、生徒たちは不思議の国のアリスやオズの魔法使いといった演目を演じました。生徒たちは台本を読み込んで、登場人物の性格や心の動きを感じとり、声や体で表現しました。圧巻の演技でした。Laurusにいるロボットのペッパー君がこの舞台に立って、感情を交えながら同じレベルで演技するのはまだまだ到底無理な話です。


ディープラーニング(※1)
直訳すると深層学習。人間が生活の中で行うタスクをコンピュータに学習させること。 人工知能(AI)には欠かせない手法。そのディープラーニングの技術が進歩し、様々な分野への実用化が進んでいます。


東ロボ君プロジェクト(※2)
日本の国立情報学研究所(大学共同利用機関法人/情報・システム研究機構)が中心となって、2011年から行われているプロジェクト「ロボットは東大に入れるか」のこと。


TED Talk(※3)
TEDというのはTechnology Entertainment Designの略語。"Ideas Worth Spreading"(拡散するにふさわしいアイデア)というテーマをもとに短い時間でスーパープレゼンを行うこと。アメリカが発祥で、TED Talksの動画サイトによって、世界中に広まっている。


STEAM教育(※4)
Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)を統合的に学習する「STEM教育(ステムきょういく)」に、Art(芸術)を加えて提唱された教育プログラム。


インターナショナルスクール





日置麻実さん
ローラスインターナショナルスクールオブサイエンス 学園長
東京、神奈川に8校のSTEMインターナショナルスクール、英語スクールを運営。日本に未来のイノベーターをたくさん輩出することを使命とする。上智大学外国語学部英語学科卒。

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