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DXバブルが始まり、企業のデジタル変革は迷走する

DXバブルが始まり、企業のデジタル変革は迷走する

「DIGITABLE LIFE〜ニューノーマル時代の生き方〜」。ソトコトオンラインとMADURO ONLINEの隔週クロス連載。毎月10日にソトコトオンライン、25日にMADURO ONLINEで更新し、Forbes JAPANウェブでも連載が読めます。コロナウィルスの感染拡大は、私たちの生活を変え、経済・社会にも大きな影響を与えています。私たちは「新しい日常」を模索し続け、リモートワークやワーケーション、ネットショッピングの利用など、デジタルを活用することを1つの解決策として生活に取り入れ始めています。第10回目は、DXバブルの始まりとその問題点について紹介していきます。

DXバブルが始まり、迷走する企業


2020年に入り、DXを目指す企業が増えてきました。コロナによる大きな環境変化もあり、その動きに拍車がかかってきています。メディアもこぞって「デジタル化」「DX(デジタルトランスフォーメーション)」とはやし立て、デジタル化に取り組まなければ置いていかれるみたいな風潮さえ生まれてきました。


ここぞとばかりにコンサル会社はDXコンサルを名乗り、システム会社はITシステムの販売を強化し始めています。企業も社内の検討も不十分なまま、システム導入を決定し、コンサル会社と契約をしてしまうことが増えています。まさに、DXバブルと呼んでよい状況が始まりました。


企業は長い目で見れば、DXに取り組まなければ、時代に取り残されてしまいます。しかし、現在は、DXバブルに踊らされ、迷走状態に入ってしまった企業が多くなってきています。有名コンサル会社に頼み、欧米のビジネスモデルの模倣ともいえる分厚い企画書を納品されその後自然消滅してしまう企業、流行のITシステムを導入しても現場が使いこなせずに終わってしまう企業、デジタル人材を増やそうとシステム会社出身者を採用し古参の社員と軋轢を生み停滞してしまう企業、このような迷走している企業が増えてきています。


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DXを迷走させるのはなぜか


迷走する企業が増えている要因は、DXバブルの波に乗り遅れまいとする焦りからきています。その焦りから、デジタル変革の本質を理解せず、変革目的も不明確なままに取組みを始めてしまうことで、やみくもに、他社に丸投げをしてしまったり、IT人材の採用してしまうのです。


現在、デジタル変革を支援するコンサル会社、システム会社、人材紹介会社などのDX支援企業は、近年ない好景気に見舞われています。DXバブルの波に乗り、海外の事例を模倣した企画書を作成し、最新のシステム導入を促し、IT企業出身者を斡旋しているからです。こういった会社の中には、この好景気の状況を「儲かっていることは、絶対にクライアントには知られてはいけないので他言無用」と緘口令を敷く会社もあるほどです。


最近、私たちにDXに取り組んでいる企業からの相談が増えてきています。「システムを導入したが結果がでない」「大手コンサル会社が分厚い成果物を作ってきたが実現困難」「システム会社から責任者をヘッドハンティング採用したが何も変わらない」など、デジタル変革が暗礁にのりあげ困っているという相談です。


それら企業には共通な要因が多く、それはデジタル変革の方向性も体制も整わないままにデジタル変革に取り組もうとしてしまっている点です。更に混乱させてしまっているのは、DX支援企業の取組みです。彼らの名誉のために申し上げますが、彼ら一人一人は真面目にクライアントの成功のために日夜頑張っています。しかし、問題は、DX支援企業が変革の経験が無いまま仕事を引き受けてしまい、その取り組みが、従来の課題解決型アプローチをとるがゆえに、DXを迷走させてしまう点にあります。欧米の事例を模倣した提案を重ね、最新システムを導入し、高給与のIT人材を斡旋してしまい、デジタル変革は起こらないという状況を多く発生させてしまっています。


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プラットフォーマーの甘い蜜に注意


デジタル変革の先駆者といえば、GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)が頭に浮かぶ人が多いかと思います。GAFAはこの20年余りで急激に成長し、今では世界を牽引する企業にまで成長しました。国内では、楽天、ヤフー、LINEなどが同じくデジタル先駆者として急激に成長してきました。


当初はメディアやコミュニケーション、ECの分野で、ネット上で世界中の人々と接点を持つプラットフォームを形成してきました。しかし、昨今ではその磨かれたITノウハウを一般の企業に有償で利用させるビジネスとして進化し続けており、現在では多くの分野のプラットフォームビジネスへと進化させてきています。


デジタル変革を目指す企業にとっては、プラットフォームを活用することは有効な手段です。多くの場合、安価な月額利用料で使用を開始できるために、自社独自のシステムを構築することもなく、コストも時間もかけることなくデジタル化を実現することができます。


しかし、すべてをプラットフォーマーに委ねると、蟻地獄のごとく抜けられないものになってしまう危険性もあります。顧客情報、商品情報、購買情報などをすべて1社のプラットフォーマーに委ねてしまうと、プラットフォーマーの制度変更に伴いコストがかさみ、自社の自由度を失いかねません。誰のために仕事をしているのかわからない状況に陥ってしまう企業もでてきています。


プラットフォームは、自社の独自性を維持し、常に離れることが可能な状態で活用することが得策です。そのためには、自社のデジタル変革戦略を持ち、プラットフォームの活用範囲を明確化していくことが有効です。同時に、プラットフォーマーと対等に話ができる人材を社内に持ち、決してすべてを委ねない関係を築いていくことが求められます。


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企業変革なくして、DX成功は無い


DXバブルの中、DXを目指す企業も、DXを支援する企業も迷走し始めています。デジタル変革の目的も不明確なままDX支援企業に依頼し、DXを支援する企業も、改革経験が無いにもかかわらず仕事を引き受け、「企業変革」が宙に浮いた状態で進みだしています。この状況に陥らないためには、企業はDXとは何かを理解し、腰を据えてデジタル変革に取り組むことが必要です。


デジタル変革とは、デジタルを活用した企業改革です。デジタルの活用については、多くのデジタル支援企業の力を借りることができます。しかし、第一に考えるべきことは「企業変革」であり、自社で今までのビジネスモデルを見直し、将来の新しいビジネスモデルを構築していくことを考えなくてはいけません。時代の変化をしっかりと認識し、進むべき方向性を明確にし、全社が一丸となった変革を実施していく必要があります。


(前回連載はソトコトオンラインのこちらへ)。


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鈴木康弘
1987年富士通に入社。SEとしてシステム開発・顧客サポートに従事。96年ソフトバンクに移り、営業、新規事業企画に携わる。99年ネット書籍販売会社、イー・ショッピング・ブックス(現セブンネットショッピング)を設立し、代表取締役社長就任。2006年セブン&アイHLDGS.グループ傘下に入る。14年セブン&アイHLDGS.執行役員CIO就任。 グループオムニチャネル戦略のリーダーを務める。15年同社取締役執行役員CIO就任。16年同社を退社し、17年デジタルシフトウェーブを設立。同社代表取締役社長に就任。デジタルシフトを目指す企業の支援を実施している。SBIホールディングス社外役員も兼任。

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