リモートワークで見えてきた新しい仕事、新しい生活、新しい人生の可能性。
リモートワークが新しい可能性をもたらした
私たちの会社も、東京都の外出自粛要請が発せられた3月末より半年にわたり、リモートワークを続けました。コロナの感染リスクを減らすとともに、完全リモートにしたならば何が変わるのかを試してみたのです。私たちの仕事は、企業のデジタルシフトを支援するコンサルティング業です。リモートワークを開始して、最初は、戸惑いもあり、しばらくは、決してスムーズではありませんでしたが、3ヵ月もすると当たり前のように仕事を進められるようになりました。リモートワークを続ける中、私たちは様々な工夫をし、今までの仕事の見直しを行ってきました。すると、今まで気がつかなかった新しい可能性に気がつくことができました。いつの間にか、リモートワークは、私たちの持つ従来の価値観を大きく変えてきていたのです。
リモートワークは生産性を高める
リモートワークを開始した当初、最初に躓いたのは、クライアントとの接し方でした。以前、私たちはクライアント先に訪問するスタイルをとっていましたが、それが出来なくなりました。私たちは、勇気を持ってリモートでクライアントをご支援するスタイルに転換を決意し、多くのクライアントのご理解のもと、支援スタイルもリモートを中心に変えていきました。すると、始めはお互いに慣れないコミュニケーションが続きましたが、回を重ねる毎にスムーズになり、更に回を重ねていくとお互いの生産性が高まってくることに気がつきました。その場で資料を共有して打合せをするので、意識が合わせやすくなり、ディスカッションした内容をその場で資料に反映させることで、持ち帰り仕事は減りました。お互いに考える時間が必要なときは、一度打合せをストップし、数時間後にショートミーティングをすることも可能になりました。そして何よりも、私たちは、移動時間が削られたことによって、以前は一日3社が限界だったクライアント訪問が、倍以上のクライアントと打合せをすることが可能になりました。また、距離の問題で、今まで東京都内のクライアントしかご支援ができませんでしたが、地方のクライアントのご支援も可能となりました。私たちは、デジタルシフトにより時間・距離の制約から解放されたのです。
リモートワークは仕事の自由度を高める
在宅勤務から3ヵ月経った7月に、当社はスーパーフレックス制度を導入しました。一ヵ月の所定労働時間が守られていれば、平日朝6時~夜10時までの間で勤務時間を社員が自由に決められる制度です。私も自分のペースで仕事をしており、早く目覚めたときには朝6時から仕事を始めたり、前日夜が遅かったときには午後から仕事を始めたりと、自由に就業時間を決めています。仕事の波に合わせて、月初は抑え気味で仕事をはじめ、月末は集中して長時間働くなどの自由な選択も可能になりました。在宅勤務が基本なので、通勤疲れもなければ、移動時間のロスも無くなり、余裕もできたことにより常にベストの状態で仕事ができるようになりました。
仕事は個人の裁量に任されるため「在宅勤務は部下の仕事の管理ができない」「部下がちゃんと仕事をしているか心配だ」という声もお聞きしますが、私たちには無縁でした。その理由としては、私たちは、元々社員一人ひとりがクライアント単位、もしくは仕事単位で動いており、個人ごとの採算管理が明確である成果主義の仕事をしていたからです。むしろ、リモートワーク導入以前よりも、社員の責任感が増したと感じています。リモートワーク導入以前は「出社していれば仕事をしている」という意識を、私も含めて全社員が持っていたのだと思います。しかし、その「出社」を無くすことで、本当に仕事に向き合うことができたからです。リモートワークにより、私たちの仕事の質は向上しました。通勤や移動時間が減ったことによる物理的生産性が向上したことも大きいですが、それ以上に、一人ひとりが責任感を持って、ベストな状態で仕事に取り組むようになったことが生産性を大きく向上させることになったのです。
リモートワークは私生活に充実をもたらす
そして何よりも、リモートワークにより価値観が一番大きく変わったのは、私生活です。家族との時間の過ごし方が全く変わりました。今までは、平日は仕事に没頭、休日は家族サービスというオーソドックスな生活をしてきました。今、振り返ってみると、休日は家族サービスと言ってしまうくらい、疲れた体に鞭を打って家族と接していたように思います。しかし、在宅勤務により生活は一変し、毎日、家族と食卓を囲み、コミュニケーションの時間も大幅に増えました。時間が増えただけでなく、朝、子どもと一緒に近くの公園を散歩したり、夕方、家族一緒に近くのスーパーに買い物に行ったり、休日は前日に早めに仕事を切り上げ、朝から全力で遊びに行ったりと、以前からは考えられない生活をしています。自分の時間も増えました。夜は、ゆったりと読書をして、趣味に時間を費やすこともできるようになりました。そうお話しすると、仕事が疎かになっているように聞こえるかもしれませんが、仕事に費やす時間は以前とほぼ同じで、むしろ集中することで生産性が高まっています。通勤時間・移動時間が減ったことにより時間に余裕ができたことも、大きな理由です。そしてこの新しい生活は、今まで経験することができなかった刺激を私に与えてくれており、仕事の面でも新しいアイディア創出の手助けにもなってくれています。今回のように、なかば強制的にリモートワークをする状況にならなかったら、こんな生活は定年をして引退生活に入らない限り、経験することは無かったと思います。リモートワークは新しい私生活の価値観も教えてくれたのです。
今回は、リモートワークを経験したことによる新しい可能性につきお話をしましたが、デメリットもあります。次回は、そのデメリットと私なりの正解についてお話したいと思います。
(前回連載はソトコトオンラインのこちらへ)。
鈴木康弘
1987年富士通に入社。SEとしてシステム開発・顧客サポートに従事。96年ソフトバンクに移り、営業、新規事業企画に携わる。99年ネット書籍販売会社、イー・ショッピング・ブックス(現セブンネットショッピング)を設立し、代表取締役社長就任。2006年セブン&アイHLDGS.グループ傘下に入る。14年セブン&アイHLDGS.執行役員CIO就任。 グループオムニチャネル戦略のリーダーを務める。15年同社取締役執行役員CIO就任。16年同社を退社し、17年デジタルシフトウェーブを設立。同社代表取締役社長に就任。デジタルシフトを目指す企業の支援を実施している。SBIホールディングス社外役員も兼任。