デジタルシフトって何?その歩み、本質を知ることで、どう新しい生活をすべきか見えてくる
迫りくるデジタルシフトの波
1990年代半ばにインターネットが登場して四半世紀が過ぎようとしています。その間、私たちの生活は大きく様変わりしました。コミュニケーションは電話からメールへと変わり、何か調べたいときには、検索して調べるようになりました。スマホが登場してからさらに加速し、コミュニケーションはチャットとなり、SNSで情報を発信し、情報を収集するようになりました。紙の地図も新聞の株式欄も見ることは無くなり、スマホで見るのが当たり前になりました。買い物もネットショッピングを活用し、お店の予約もクチコミを参考にワンクリックで済ますようになりました。振り返ってみると、この四半世紀で随分と私たちの生活は変わったと実感します。これらの変化は「デジタルシフト」「デジタルトランスファー」「DX」などと呼ばれるようになり、年々その変化は大きくなってきています。これからもデジタルシフトは、私たちに波のように押し寄せ、数年後・数十年後には今から想像もできない生活をもたらし、想像もできない社会へと変化していくでしょう。
デジタルシフトの本質
最近、様々な経営者の方々にお会いしたときに、良く聞かれるのは「デジタルシフトって何?」「デジタルシフトの本質を教えてください」という質問です。私は常に同じ回答をします。「デジタルシフトとは、アナログ時代の時間・距離・量・方向の制約を解放することです」と。 例えば、ショッピングで考えてみると、まず「時間の制約からの解放」です。昔はお店が開店しているときにしか買い物ができませんでしたが、今では24時間365日いつでも、パソコンやスマホがあれば買い物をすることが可能となりました。次に「距離の制約からの解放」です。昔はその場所に行かなければ買い物ができませんでしたが、今では、地球の裏側にあるお店の商品でも買うことができるようになりました。3つ目に「量からの解放」です。昔はお店の広さで買える商品数に限りがありましたが、今ではバーチャルに商品を無限大に品揃えすることが可能です。アマゾンでは日本でも2億を超える商品を買うことができます。最後に、「方向性からの制約」です。昔はチラシやTVCMなどにより、売り手が一方的に不特定多数に伝えていましたが、今では常時ネットを通して繋がっている顧客の好みに合わせて、ダイレクトに伝えることができます。このように少し昔を振り返ってみると、アナログ時代には時間・距離・量・方向の制約がありましたが、デジタル時代になるとこの時間・距離・量・方向の制約から解放されるようになります。この制約から解放されるということこそが、デジタルシフトの本質です。
時代の節目に私たちは生きている
デジタルシフトにより、私たちの生活は大きく変わってきていますが、まだ始まったばかりです。今、私たちは「情報革命」とも呼べる時代に生きています。歴史を振り返ってみると、人類は2つの革命を経験してきました。1つ目の革命は紀元前に起こった「農業革命」であり、この革命により人類は安定的に「食」を得ることが可能となりました。2つ目の革命は18世紀に起こった「産業革命」であり、この革命により人類は「動」を得て、大量生産、遠方移動を可能としました。そして、現在、人類は3つ目の革命である「情報革命」の最中にあり、世界中の人間がネットで繋がり「知(情報)」を共有することができるようになろうとしています。農業革命、産業革命ともに長い年月をかけて社会を変えてきたように、私たちが経験している情報革命も、インターネットの登場が始まりだとすると、四半世紀過ぎた今でも私たちはその革命の最中にいると考えるべきでしょう。今後、世界中の人・企業が本格的に「デジタルシフト」に取り組むことになるでしょう。農業革命のときにこの流れに対応できなかった部族は衰退し、産業革命のときに流れに対応できなかった国家・企業は衰退したように、情報革命の最中の現在、この流れに対応できない人・企業は衰退していくことになるでしょう。その様な時代の節目に私たちは生きているのです。
これから世の中は大きく変わる
私の著書「アマゾンエフェクト! 「究極の顧客戦略」に日本企業はどう立ち向かうか(プレジデント社2018年初版)」の中で、米国では近年アマゾンエフェクトという言葉が生まれ、アマゾンの躍進により米国小売業が影響を受けはじめ、米国小売業が今生き残りを掛け自社の変革を迫られている現状を書きました。変革できずにトイザらスやメーシーズのように破産に追い込まれた企業がある中で、逆に社内の大変革を始めたウォルマートは、アマゾンと真っ向勝負し、新たな成長を始めると予測しました。当時のマスコミの論調は、ウォルマートがそこまでネット分野で成長すると指摘していませんでしたし、変革は金食い虫と揶揄する専門家もいました。結果は、今年、米国でもコロナが流行する中、ウォルマートはアマゾンをも凌ぐ成長を遂げています。同著書では、日本においても全く同じ現象が小売業はもちろん全産業においてデジタルシフトが加速されると指摘しました。今でもその考えは変わりません。国内でも今年に入りコロナの流行により、多くの人々がデジタルシフトの重要性に気がつき始めています。これから、人も企業も大きく変わっていくことになるでしょう。
次回は、このコロナの影響により加速化されたデジタルシフトにつき解説していきます。
(前回連載はソトコトオンラインのこちらへ)。
鈴木 康弘
1987年富士通に入社。SEとしてシステム開発・顧客サポートに従事。96年ソフトバンクに移り、営業、新規事業企画に携わる。99年ネット書籍販売会社、イー・ショッピング・ブックス(現セブンネットショッピング)を設立し、代表取締役社長就任。2006年セブン&アイHLDGS.グループ傘下に入る。14年セブン&アイHLDGS.執行役員CIO就任。 グループオムニチャネル戦略のリーダーを務める。15年同社取締役執行役員CIO就任。16年同社を退社し、17年デジタルシフトウェーブを設立。同社代表取締役社長に就任。デジタルシフトを目指す企業の支援を実施している。SBIホールディングス社外役員も兼任。