デジタル変革は人を中心に考えていけば必ず成功する
デジタル変革を成功させる方法
「デジタル変革はどのように成功させることができますか?」というのは、多くのクライアントから最初に聞かれる質問です。私は常に同じ回答をしています。「デジタル変革は、人の意識を正しい方法で変革していけば必ず成功します」と答えるのです。
私は、長年デジタル変革の現場に立ち続け、実際に成功・失敗を経験し、多くの成功、失敗事例を見続けている経験から、デジタル変革を成功させるためには、一人ひとりの意識の変革をしていくことこそが唯一の方法だと自信を持って言い切ることができるようになりました。
ビジネスは人と人とのつながりであり、企業は同じ目的を持った人々の集団です。仮に、経営者からすべての従業員まで同じ意識を持ち、同じ方向に動き出したとすれば、企業は大きな成果を生み出すことができます。これが、やがて企業風土となり、従業員の当たり前の共有意識となり、従業員の統一化された行動となっていきます。デジタル変革は、その既にある企業風土をゼロベースで再構築していく変革です。企業に属するすべての人々の意識を変え、企業風土を変えていくことこそがデジタル変革を成功させる唯一の方法であり、一番の近道なのです。
私は、デジタル変革は、人の意識の変革が最も重要であり、企業に関わるすべての人々を中心として考えていくことが最も大切だと考えます。それを「ヒト中心デジタル変革」と名付けました。ここでいう「ヒト」とは、顧客・取引先・従業員・社会のことを意味します。
「ヒト中心デジタル変革」の成功ステップ
「ヒト中心デジタル変革」は、経営者の意識を変え、デジタル変革の過程のなかで、すべての従業員の意識を変えていこうとする考え方です。そして、企業が変革することで、顧客や取引先や社会に影響を与えていきます。
「ヒト中心デジタル変革」には、近道はなく、必ず順に進まなければいけない5つのステップがあります。まず、経営者の意識を変え決意を促すことから始まります。次に、変革するためのデジタル推進体制を構築します。その後、デジタル変革を実現した未来を想像し業務の改革に取り組み、自社でITをコントロールしていきます。最後は、組織や個人に定着させて変革を加速させていきます。この一つ一つのステップを確実に、一段一段階段を上るように進んでいけば必ず成功することができます。もし、どこかでつまずいたならば、一段下がってやり直す気持ちで取り組んでいただきたいと思います。ここでは、概要につきご説明させていただきます。
1)経営者の意識を変え決意を促す
第1ステップでは、経営者の意識を変え決意を促します。経営者が決意をしない限り、全社が一丸となった変革をすすめることはできません。経営者自身がそれに気がつき変革の決意をするか、周りが経営者に決意をさせるかしなければデジタル変革の成功はありません。
2)デジタル推進体制を構築する
第2ステップでは、デジタル推進体制を構築していきます。経営者だけで変革はできません。経営者と二人三脚で変革を進めるデジタル推進体制を慎重に構築し、推進プロジェクトを発足させることが、結局はデジタル変革を成功させるための近道となるのです。
3)未来を想像し業務を改革する
第3ステップでは、未来を想像し業務を改革していきます。デジタル変革をシステム導入と勘違いしてしまうことがありますが、業務改革こそデジタル変革の真髄なのです。未来の顧客をイメージして、自社のビジネスをどのように変化させるかを想像し、業務改革をしていきます。
4)自社でITをコントロールする
第4ステップでは、第3ステップの業務改革と連動して、システムの導入を検討していきます。このときに重要なのは、従来の企業独自のシステム開発から脱却して、クラウドサービス活用などを前提に考えるシステムをプロデュースする発想に転換していくことが大事です。
5)変革を定着させ加速させる
第5ステップでは、進みだした変革を組織や個人に定着させていきます。必ずしも最初から成功する訳ではありません。粘り強くあきらめずに行動していくことにより、周囲の意識が変わり協力を得られるようになってきます。ここまできて、初めてデジタル変革は、大きな成果をもたらすことになるでしょう。
自社にあったデジタル変革を模索する
「ヒト中心デジタル変革の成功ステップ」を確実に実施すれば、デジタル変革は必ず成功することができます。但し、自社にあった方法を模索していく必要があります。企業の環境は様々であり、既に経営者が決意している場合もあるでしょうし、経営者を説得するところから始めなくてはいけないかもしれません。企業変革に精通した組織を既にお持ちの会社もあるでしょうし、全く変革経験が無い会社もあります。目指す未来の業務も1年先を考えて動き出す企業もありますし、10年後を考えて動く企業もあるでしょう。既に自社にシステム専任部門をお持ちの会社もあるでしょうし、外部企業に丸投げの会社もあるかもしれません。変化を受け入れやすい企業風土の会社もあれば、そうでない企業もあります。デジタル変革を成功させるためには、「ヒト中心デジタル変革の成功ステップ」を自社の状況に合わせた形で進めていくことが大切です。
最後に
ここまで、14回にわたり、デジタル化が進むニューノーマル時代の生き方として連載してまいりましたが、今回で、一旦筆をおきたいと思います。
社会のデジタルシフトが進み私たちの生活は大きく変わりました。その動きは国内に留まらず全世界でおき、世の中が大きく変わるデジタル変革(DX)が起きつつあります。新型コロナウィルスの感染拡大によりその動きは加速し、デジタル変革はもはや避けることができない時代の潮流となりました。
連載を通して、お伝えしたかったことは、デジタル変革は避けては通れないものであり、その変化に私たちは対応していかなければいけないこと。そして、どんなに技術が進歩してもすべては、人を中心として考え、一人ひとりが変化に対応していくことが大切だということです。
連載では、私たちの仕事や生活がどう変わるのかについてお話させていただきました。具体的な取り組みについては、また別の機会にお伝えしていきたいと思います。
最後に、進化論のダーウィンの名言で締めくくりたいと思います。
最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びるのでもない。
唯一生き残ることが出来るのは、変化できる者である。
チャールズ・ダーウィン
(前回連載はソトコトオンラインのこちらへ)。
鈴木康弘
1987年富士通に入社。SEとしてシステム開発・顧客サポートに従事。96年ソフトバンクに移り、営業、新規事業企画に携わる。99年ネット書籍販売会社、イー・ショッピング・ブックス(現セブンネットショッピング)を設立し、代表取締役社長就任。2006年セブン&アイHLDGS.グループ傘下に入る。14年セブン&アイHLDGS.執行役員CIO就任。 グループオムニチャネル戦略のリーダーを務める。15年同社取締役執行役員CIO就任。16年同社を退社し、17年デジタルシフトウェーブを設立。同社代表取締役社長に就任。デジタルシフトを目指す企業の支援を実施している。SBIホールディングス社外役員も兼任。