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世界の数学教育事情/第27回

世界の数学教育事情/第27回

世界に通用する教育を考える「21世紀脳を持つインターナショナルな子供の育て方」連載27回目は、「世界の数学教育事情」について。

今回は世界の数学教育がどれだけ発展しているのか。その中で、日本はどれくらいの位置にいるのか。数学大国と言われているインドでは、どういう教育をしているかなどを紹介していきます。


AIやIT技術の発展でますます重要と言われている数学。
世界ではどんな教育をしているのか?


グローバルにAIやIT技術が進む時代、数学はますます重要になってきており各国で数学教育に力を入れています。今回は世界の数学教育事情についてお話いたします(ここでは算数も数学と呼びます)。


<インド>
ここ10年くらい注目を集めているのがインド式数学教育です。掛け算などの計算方法も独特で有名ですが、九九も日本のように9×9で終わりではなく20×20まで覚えます。正負の数、一次方程式など日本の中学生が学習する内容を、またデータサイエンスの概念なども小学校から履修しています。インドはIT大国で、多くのインドの若い人達はITエンジニアになることに憧れをいだき数学の学習には大変熱心です。実際GoogleやMicrosoftなどの巨大IT企業のトップはインド人です。 


<シンガポール>
PISAのテストでシンガポールは2009年より数学で1位か2位を堅持しています。そのためシンガポール式数学(Singapore Math)※1も歴史は浅いのですが今や世界的に有名です。足し算、引き算などでもただ単に計算するのではなく、バーモデル、いわゆる線分図を駆使し考えさせる数学になっています。


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シンガポール式算数ではバーモデルがよく使われています。

<アメリカ>
フィールズ賞※2受賞者の数は世界一であるにもかかわらずPISA※3のテストでは20位内にも入っていない状況からトップレベルと平均値が乖離していることが伺えます。アメリカ人もそれを良く自覚しているようで、今、Russian School of Mathという数学の塾が大変人気です。あるロシア人女性がはじめたものでパズルなどを通してクリティカルシンキングや問題解決力をはぐくむことを主眼としており、ここでの学習者は様々なMath contestで力を発揮しています。


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カナダ出身の数学者。数学のノーベル賞とも呼ばれるフィールズ賞の提唱者。

<日本>
数学は日本では昔から「読み書きそろばん」といいましたが、数学は重要な基礎学力の1つと捉えられ子供の頃から習熟することを推奨されていました。その影響もあってか日本には優秀な数学者が輩出しています。数学のノーベル賞と言われるフィールズ賞受賞者の数はアメリカ、フランスがトップの13人で、ロシア、イギリスが続き日本は3人で5番目に多いのです。またPISAのテストでも日本の数学リテラシーの順位は、中国、シンガポール、マカオ、香港、台湾に次ぐ6位となっています。フィールズ賞がトップ層の数学レベルを表しているとしたら、PISAの数学リテラシーは平均的な子供たちの数学レベルを表しています。


その両方でトップに近い順位を取っているのですからまずまず成功しているといっていいのでしょう。しかしながら問題も指摘されています。その1つは問題を解くプロセスを重視しないことです。


やり方、公式を暗記してひたすら早く計算するよう指導された経験を持っている方も多いと思いますが(例えば公文式などのように)、答えさえあっていれば〇。やり方は100%あっていても答えが違えば×。日本人でしたら常識ですが、これは世界標準ではないようです。ある日本人の学生がアメリカのビジネススクールで答えを間違えたのにプロセスが正しかったからと満点をもらったことに大変驚いたそうです。計算の速さや正確さは今の時代計算機やコンピューターができることなので、そこに時間を使わないでもっと論理的思考を育み、独創的に問題解決をする。そういう数学教育がますます重要になってくるでしょう。


またTIMSS※4のアンケートによると例えば中2の「数学は好きか?」という質問に強くそう思うと答えた人は13%で国際平均値より20ポイント下回り、将来自分が望む仕事につくために数学で良い成績をとることが重要か」という質問も平均より21ポイント下回っているのです。 これからは問題を解くスキルだけでなく、数学は楽しい、将来役に立つということを認識できるような教育も必要なのかもしれません。


【注釈】
シンガポール式数学(Singapore Math)※1

シンガポールマスはシンガポールの教育省により公立学校の1年生から6年生のために開発されたメソッドでここ20年世界中で採用されています。まず具体的な物、クリップやブロックなど使うことからはじまり、線分図などの図を経て抽象的な数や記号を使う3ステップを踏んで学びを深めるアプローチ。


フィールズ賞※2
若い数学者のすぐれた業績を顕彰し、その後の研究を励ますことを目的に、カナダ人数学者ジョン・チャールズ・フィールズ (John Charles Fields, 1863–1932) の提唱によって1936年に作られた賞。


PISA※3
Programme for International Student Assessment
OECDが進めている国際的な学習到達度に関する調査。PISA調査では15歳児を対象に読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーの三分野について、3年ごとに調査を実施しています。


TIMSS※4
Trends in International Mathematics and Science Study
IEA(国際教育到達度評価学会)が進めている 算数・数学及び理科の到達度に関する国際的な調査。調査は4年ごとに行われています。
 


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ローラスインターナショナルスクールオブサイエンス 学園長
日置麻実さん

東京、神奈川に8校のSTEMインターナショナルスクール、英語スクールを運営。日本に未来のイノベーターをたくさん輩出することを使命とする。上智大学外国語学部英語学科卒。

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