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栃木県宇都宮市のサーキット「SHINOI RING」が目指すモビリティハブとは?

栃木県宇都宮市のサーキット「SHINOI RING」が目指すモビリティハブとは?

サーキットといえば自動車レースをする場所を思い浮かべるが、ここは少し違う。2026年9月にオープンする栃木県宇都宮市篠井町(しのいちょう)の「SHINOI RING」、その開発を手掛けた人たちに聞いてみた。

宇都宮市のサーキット「SHINOI RING」で実現するモビリティハブとは?

栃木県宇都宮市篠井町のサーキット「SHINOI RING」が9月16日に一般開放される。その運営は、自動車メーカー向けの車両開発を本業とする日本の総合エンジニアリング・開発支援企業「フィアログループ」。

自動車や次世代モビリティ(移動体)の企画・デザイン・試作開発などを手がける同社が、全長1.3kmのオンロードコースだけでなく、森を切り拓いてダートコースを隣接させた。また、週末にはイベントなどを企画し、「SHINOI RING」に遊びに来てもらいたいと、一般来場者が楽しめるレストハウスやドライビングシミュレーターも備える。

同社が掲げるコンセプト「モビリティハブ」構想とは、どんな世界なのだろうか。フィアログループ代表取締役社長の岩﨑晃彦氏、そして「SHINOI RING」の企画・運営に汗を流す、 田中君弥さん、早川 巧さんにその夢を聞いた。

きっかけは「自動車開発の機密を守れるテストコース」

フィアロコーポレーション 代表取締役社長 岩崎晃彦さん。
―― まず確認しておきたいのは、日本の自動車開発に欠かせないフィアログループがサーキットをレジャー目的で一般来場者に開放しようとした理由とはなんだったのでしょうか?

岩﨑社長「きっかけは、やはり私たちの仕事が変わってきたことです。最近のクルマはソフトウェアを含めて新しい技術がどんどん入ってくるので、机上だけでやっていてもしょうがない。モビリティですから『テストして、動かして、走って、検証する』というのが絶対条件になってきました」。
―― 本業の自動車メーカーと共に作る新型車やコンセプトカーの開発は、当然ながら最高機密にあたる。秘密裏に走行検証ができる環境に価値があるが、「SHINOI RING」(旧ヒーローしのいサーキット)はその場所としてうってつけだった。

岩﨑社長「最初は純粋にクルマのテストを行えて、機密が担保できる場所として魅力がある、それだけで始まったんです。ただ、実際にこの場所に来てみると、テストだけじゃなくて一般の人にモビリティの楽しさを知ってもらいたいと思うようになりました。平日は私たちの開発に没頭できる技術革新を追求する場所として、週末はモビリティの文化を作るための場所として使っていけるんじゃないかと」。
―― こうして「SHINOI RING」の一般開放という発想が生まれ、この土地の環境の良さを活かそうという取り組みが始まった。

クルマに興味がない人たちにも楽しんでもらいたい

岩﨑社長「クルマが好きな人は情報感度も高いので、多分来ていただけると思うんです。ただ、私たちが気にしているのは次の世代の人。若い人だったり、これからクルマに興味を持つ人。もちろん男女問わずです」。

―― 一部の都市では、そもそも自分専用のクルマを必要としない生活が成立している。自動車業界にいる身として、手応えのなさのようなものは実感しているという。それでも、非日常の体験をすればポジティブな反応に変わるケースがあることも、プロジェクトの中で目の当たりにしてきたという。実際に同社内にはクルマの購入を検討し始めたメンバーがいるという。
―― 取材当日、コースではレーシングドライバーの岩佐歩夢選手による同乗体験が行われていた。くじ(ガチャガチャ)で当選した親子連れが助手席に乗り込み、全開走行を味わっている。凄く良い表情になっている家族の光景を見ながら、岩﨑氏はこう続けた。
岩﨑社長「サーキットは、いわゆる運転レベルの高い人が来る場所ということになってしまっている。もっとハードルを下げて、週末ここでの体験プログラムを、例えば先導車の後を楽しく流すぐらいのところでやってみたいですね。もちろんタイムを出したい人には貸し切りで利用してもらってもいいと思っています」。

―― 速さを競わないサーキット走行体験と、貸切による限界走行。既存のサーキットファンには物足りなく映るかもしれないが、それは想定内と岩﨑社長は言う。都内からは2時間の距離があり、ふらりと立ち寄れる立地でもない。まずは宇都宮を含む北関東の人に向けて情報発信し、そこから広げていきたいという。

40年目にして芽生えた、地域への思い

―― フィアログループ自身は、栃木に拠点を置いて40年になる。岩﨑氏が1997年に入社した際の配属先も、栃木の工場だった。ただし、その事業所と篠井町は34〜35kmほど離れている。

岩﨑社長「そこはホンダさんを中心とした工業地帯なので、地域に対する思いというよりは、純粋にホンダさんの開発をやってきたという意識が強くて。実際そこまで地元への思い入れはなかったかもしれません」。

―― 変化したのは、この1年だという。SHINOI RINGを立ち上げる作業に時間を費やす中で、宇都宮という場所への思い入れが後から育っていったようだ。宇都宮市との連携協定も、取材時点で締結が終盤に差しかかっていた。

岩﨑社長「地元の宇都宮市民も、何もないし、有名なところではないと謙遜するのですが、せっかくこういう施設があるので、宇都宮市のみなさんと一緒に地域の活性をやっていきたいと思うようになりました」。

カフェ、ランニング、自転車も! 多様な”好き”を抱擁できる施設に

―― SHINOI RINGが「モビリティハブ」を掲げる理由は、コースの上でクルマ以外のものが走ることにある。

岩﨑社長自身がランナーであり、社内にはランニングチームがある。彼らに話を聞くと、走る場所の確保に苦労しているという事情が見えてきた。

岩﨑社長「公園だとランニング目的以外の人も大勢いるので、安全に気を遣います。それがここだとクルマを入れなければ自由にランニングできる。そのための時間を作ったら、サーキットでも違った時間の過ごし方ができるんじゃないかと」。

―― 来年にはリレーマラソン大会の開催も構想中。自転車走行も候補に挙がり、栃木の強豪自転車チームを招く案も浮かんでいる。さらに、サーキット内の芝生に椅子を置いてみたら思いのほか楽しかったという実感から、キャンプ活用の話も出た。
モビリティハブ プロジェクトリーダー 田中君弥さん。
―― プロジェクトリーダーの田中さんは具体的な計画を話してくれた。クルマ好きが早朝に集まり、コーヒーを飲みながら愛車を並べて過ごす「カー&コーヒー」である。

田中さん「すでに企画しているのは、社長一押しの『カー&コーヒー』です。東京・代官山でも定期的にやっているミーティングを、ここでも開催したい。SHINOI RINGオープンまでには新しい施設としてカフェができるので、名物になるようなコーヒーを飲んでいただきながら、好きな人同士のコミュニティでワイワイ楽しくやってもらいたいですね」。

―― 年内に2回、11月と12月の実施を目指しているという。将来的にはジャンルやテーマを絞った回も想定している。
岩﨑社長「人の数だけ趣味がある。どんな趣味でもここで実現出来たら面白いよね、という話をしています。モビリティハブと謳っているくらいなので」。

―― モビリティを通して、人と人を繋ぐハブという大きな構想。そのために来場者の声を拾う姿勢も明確だ。

岩﨑社長「来てくれた人が要望を置いていってくれるんですよ。それがすごく参考になる。僕らはモビリティの開発ばかりをやってきたので、意外と他の世界のことを知らない。とにかく人が来てくれると意見が出てくるので、それを良いところ取りしたいと思っています」。

若手がチャレンジしていける場所作り

―― こうした企画を実現していくのに欠かせない田中氏と、現場に常駐する早川氏という若手2人。その意図的な配置にも注目したい。

岩﨑社長「彼らがいろいろ決めて、そのジャッジをすることにも正解が無いじゃないですか。会社としてやったことがないので、聞かれても正直わからない。責任は私が取りますが、彼らにとっては権限をもって決める経験になることが重要ですね」。

―― 一定期間ここで過ごした後、既存業務に戻る。そこにまた別のメンバーが入ってくるかもしれない。岩崎社長は人が入れ替わることで組織全体が成長するという設計まで描いている。SHINOI RINGは、フィアログループにとって人材育成の場でもあるのだ。
モビリティハブ 主任 早川 巧さん。
―― 早川さんは現在、ほぼ常駐で現場を取りまわしている。SHINOI RINGを作っていく難しさを問うと。

早川さん「迎えるお客さんの顔を想像しながら、敷地内の隅々を開拓したり準備していくと、難しいと思ったことはなくて。すごく熱意を持って集中できています。とりあえずやってみて、ダメだったら違う方向に何パターンも考えてみます。それを仲間と相談してみたりするのも楽しいですね。1人で考えず、まずは周りに広げてみて対処して改善していってます」。
―― 何かに取り掛かる時、必ず人がいて、その背景にクルマがある。場内のメンテナンスもホスピタリティも、そこから逆算して考えているという。例えば敷地内のダートコースは彼らが森林を切り拓いた道だ。もともとクルマが通れる状態ではなかったが、田中さんや早川さんが真夏に草刈機を手にし、道を拓く。どう刈ればクルマが通れるか、どこを残せば来場者が喜ぶかを想像しながら手を動かしたという。

自分たちが楽しいからやり続けられる

―― そして、岩﨑社長は率直な不安を口にしたが、そこには謙虚な思いと、挑戦することへのワクワク感を感じさせてくれる。

岩﨑社長「私たちはずっとB to B(企業間取引)の世界で生きてきたので、(一般の人に喜んでもらう)B to Cのノウハウは無い。それがある意味で怖くて、一番の不安要素でもあります。ただ、敢えてそこに挑戦することで自分たちのレベルを上げていきたい。かしこまった運営はできないかもしれないけど、むしろカジュアルな雰囲気で良いと思うんです」。
―― イベントの集客は最初から人が集まるとは限らない。それでも育てていく前提で回数を重ねる。派手なスタートを狙うより、続けていけることを優先する。岩崎社長らしい新しい考え方なのかもしれない。

岩﨑社長「うちの会社が苦手なのは”継続”することなんです。だからとにかく、やめずに継続していく。それをテーマにしています。だから自分たちが楽しんでやっています。お客さん第一ですけど、それ以上に、自分たちが楽しいからやっているというのを感じてもらいたいですね」。
施設名/SHINOI RING
所在地/栃木県宇都宮市篠井町前山1804
オンロードコース/全長1.3km
併設施設/ダートコース、レストハウス(カフェ)、ドライビングシミュレーター
一般公開/2026年9月19日土曜日より
https://shinoi-ring-ts.phiaro.jp/

●SHINOI RING/フィアログループ
撮影/能勢博史、垣野雅史、取材/大竹菜々子(陽だまりもよう)
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