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【インタビュー】会社員から彫金職人、そして移住~開業へ! 関 大樹さんのものづくり生活

【インタビュー】会社員から彫金職人、そして移住~開業へ! 関 大樹さんのものづくり生活

会社員からシルバーアクセサリ―職人の世界へ飛び込んだ関さん。大きな決断を迷いなく下し、移住や開業を決めた裏側。そしてカフェと工房が一体化したユニークな店舗スタイルに触れてみました。
関 大樹さん
1989年8月7日生まれ。東京都出身。建築関係でサラリーマンとして勤務のかたわら、趣味のバイクでのイベント参加をきっかけに彫金の仕事と出会い、シルバーアクセサリーショップでアルバイトを始める。後に社員として勤務。独立を経て、2015年4月より店舗を構えず工房のみで営業するスタイルで開業。5年ほど前に家族で奥多摩に移住し、2024年10月に現在の「Alsomitra Jewelrycraft&Cafe」を開店した。

ものづくり好きが高じて、会社員から職人へ

関「この仕事を始める前は会社員をやっていました。学生時代に建築関係の勉強をしてたので、床暖房とかの住宅設備を作るメーカーに勤めていたんです。その会社で「バイト(副業)してもいいよ」ということになったので」。

住宅設備関係の会社員だった関さんは、ものづくり好きということもありアクセサリーショップのアルバイトを始めた。そのときに身につけた彫金という仕事が、結果的に職人としての道を歩むことに。

関「当時20代前半ぐらいだったんですよね。その時はまだ独身だったけど、東日本大震災もあって当時勤めていた会社も業績が悪くなって、やっぱこのまま(会社員)じゃいかんなっていうのもあって」。

関「それで、週末だけでバイト始めたんです。バイトの期間が1年くらいあって、結果的に当時いた会社を辞めて、アクセサリーショップの方を専業にしました。そこからさらに1年ぐらいいたかな。合計して2年ちょっとぐらい、その間にいろいろ覚えたので、独立して一人でやってみようかなって」。
―わずか2年の間に独立を決めるあたりが凄いですね。

関「もうなんか勢いでしたね。せっかく自分で作れるならオリジナルのもの作りをしてみたかったし、自分の看板を出してやりたいなっていうのがあったので」。

―会社員をやっている頃から、独立開業するということに興味はありましたか?

関「会社員やってる頃はそんなでもないかな。ただ(明確な)目標が無かっただけで。(彫金職人を)やってみたら、こっちの方が肌に合っていたなっていう感じです」。

―立ち位置が変わったことで目標が生まれ、マインドにも変化が生まれたというのはとても興味深いですね。

奥多摩に開店した「彫金工房 アルソミトラ」は工房とカフェが合体した独創的な空間

現在の奥多摩で店を構えることになったのは、移住制度を知ったことから始まったそう。独立すると同時期に結婚し、お子さんが生まれたことで、住んでいたアパートが手狭になったことが直接のきっかけとなる。

関「役場に相談したら、(奥多摩の)物件に15年住むと無償でもらえるっていう制度があると知ったんですよ。その時『応募してみたらどうですか?』みたいな話をいただいたので。それで応募したら当選しちゃって。まぁ『当選したなら、こっちに引っ越してこようか』っていう感じで」。
関「もともと『絶対にここじゃなきゃダメなんだ』みたいなのなかったので。今までも結構そうやって生きていた感じはありますね。プランAがダメならプランBでみたいな感じ。だから店も『ここの物件じゃなきゃダメ』っていうのもなくて、たまたまここが空いたから入った。奥多摩駅からも近いし、ちょっと広いし、2階もあって、いい感じだよねって」。
多くの人が悩みがちな大きな決断をあっさり下している印象を受けたのは、こだわりを持ちすぎない柔軟な思考からでしょうか。関さんいわく「プランAがダメならプランBでみたいな感じ」という言葉も印象的です。
看板犬のコーギー「いぶしちゃん」は8か月(取材時)。パピー期ということもあって、好奇心旺盛で愛嬌たっぷりな女の子。
―彫金工房とショップ、カフェが一緒になった店舗スタイルというのは、開業当時からコンセプトとしてあったのでしょうか?

関「体験ワークショップもやれれば良いなというのは最初からありました。ただ、ここはキッチンがあるし、飲食スペースもあるから、カフェもできるじゃんと思って。物件ありきで、店のコンセプトは後から付いてきた感じです」。
―犬好きにとってもこういった暮らしは良いかもしれませんね。

関「ああ、それはありますね。ずっと(犬と)一緒にいられるのは良かった。散歩するにも自然が近いし、川も山もある」。

好きな仕事と道具に囲まれ、いつも愛犬と一緒にいられる素敵な空間。愛犬「いぶしちゃん」もとても幸せそうです。
工房だけでの営業スタイルだった時代はイベント出店やインターネット販売が中心だったが、実店舗があることで集客の幅が広がったそう。

関「やっぱり、ちゃんと店を構えるメリットっていうのは大きいなと。イベント出店のときは自分から行かなければならなかったから、お客さんの方から来てくれるっていうのはありがたいですね。店の中でお客さんと話をするなかで、プレゼントしたい相手の好みの話になったりとか、オーダーメイドで注文してみようかなみたいな話になったりするので、きっかけとしてカフェがあって、結果的にアクセサリーも気に入ってもらえて売り上げにもなってくれるのが一番嬉しいです」。
あたたかな店内の雰囲気と、良い意味で職人らしからぬ、関さんの物腰の柔らかさもあり、カフェ利用のみでも十分満足できる空間。

開業の目的のひとつである体験ワークショップの内容やシルバーへのこだわりについても伺いました。

2時間で完成できる、職人体験のワークショップも

―関さんが作るアクセサリーのこだわりについて教えてください。

関「うちは基本ハンドメイドで全部作るので、オーダーメイドもできます。素材はシルバー925を使っていて、板とか棒の状態から、一個一個曲げたりとか模様を彫ったりしています。地金を直接加工する『鍛造』っていうんですけど、全部手作りです」。
―インディアンジュエリーっぽい作品が多いですね。

関「まさにインディアンジュエリーも鍛造で作っているものが多いので、そういう印象を受けると思います。僕が(職人を目指すきっかけとなった)体験で作った時も、やっぱり金属を直接加工して作る鍛造だったので、今もその流れを汲んでいます」。
関「複雑な絵柄、唐草模様とか、そういう模様を彫るためのタガネも自分で作っていて、基本的に自分の作品で使うものに関しては、オリジナルのタガネを使っています。あと、アフターサービス的な修理とか、磨き直したりとか、そういうメンテナンスは、うちで買ってきていただいたものは無料で修理しています」。
―ひとつのアクセサリーを作るのにどのぐらいの時間がかかるんですか?

関「早いものだったら1~2時間でできちゃうものもあります。体験ワークショップは一枠2時間で、例えば2人で来てもらって、全くの初心者のお客さんが作り始めても、2時間の枠内で終わるので、実際の作業の時間でいったら、多分お客さんは1時間くらいですかね」。

関「材料となる銀の棒を必要な長さに切って、模様を掘って、炙って、曲げて、つなぎ目溶接して」。

―体験ワークショップでも同じことができるのでしょうか?

関「はい、そんな感じですね。模様を打ち込むスタンプは100種類以上あって、いっぱいある中から選べます。スタンプの種類は多分日本全国でも一番多い(ワークショップを行っているところで)かもしれない。ただ、僕が使うようなオリジナルの道具を使ってお客さんが作るのはちょっと難しいと思うので、体験ワークショップで使用するものと、自分のオリジナル作品作りの道具は分けています」。
関「体験ワークショップは『こんなに本格的なんですか』、ってよく言われます。他でもワークショップをやってるところはあるんですけど、最初から輪っかになってるやつを叩いて模様をつけるだけとかが多いかも。棒の状態から作るっていうとこって、そんなにないらしくて」。

―完成が見えない状態からスタートするのはワクワクしますよね。

関「バーナー使って、ちょっとここに火当ててくださいと。ここの継ぎ目のところ、金属が溶けてくっつくんですよみたいな説明をしながら一緒に体験していくので、技術指導みたいな感じはものづくり好きな人だとドハマリしますね。女性の方でも、楽しくやっていただけてます」。

―関さんと同じように、職人になりたい人もここに来そうですね。

関「全然そういう人もウェルカムなんですけど、なかなか少ない。そういう人がいたら、うちの店がきっかけになればいいのになっていうのはあります。僕が最初(職人を)始めたときも、体験ワークショップがあったおかげなので。当時の自分が体験した感動を、他の人にも伝えていきたいですね」。
体験ワークショップはプロと全く同じ環境でものづくりを体験できるので、関さんがかつて体験したような、「ものづくりへの感動」を得られることをコンセプトに設計されているのだそう。

冬は創作の幅も広げていきたい

―今後の展望はありますか。

関「もっと創作の幅を広げたいなっていうのはあって。いろいろ機材も揃ってきたし、作業場を広げればいろんなことができる。(機械を指さして)それ、天然石の原石を研磨する機械なんですけど、常に使えるスペースがあれば、その原石から削り出してペンダントにするといった体験もできるなって考えていて。自分にとっても創作の幅が広がるし」。
関「冬はお客さん減る時期で、(場所柄)やっぱり冬になると歩いている人は少ない。だからお客さん来なくてもできる仕事を、もっとしていきたいなって。なので、併設しているカフェは、冬は作業場感の強いお店になっていくのかな」。
彫金工房と体験ワークショップ、そこにカフェスペースが併設された独自の店舗スタイルの裏側には、店主である関さんの柔軟で前向きな考え方や、ものづくりの楽しさを伝えたいという思いがありました。

店名の「アルソミトラ」は空飛ぶ翼が付いた種を持つ植物の名前が由来。自身の作品がいろいろな場所へ飛び立ち、成長していくことを願って名付けられたそうです。今後はアクセサリーと共に、関さんのような夢を持った職人が飛び立っていく場所になっていくような気がします。
Alsomitra Jewelrycraft&Cafe
所在地/東京都西多摩郡奥多摩町氷川1389
電話/090-3545-6604
営業時間/10:00~17:00(金曜のみ10:00~15:00) 定休日:水、日曜
駐車場/向かいの郵便局駐車場に2台分
撮影/垣野雅史 取材・文/田中一馬
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